知事の危機管理の考え方について(知事)

Q 岡 重夫 議員(県民)

令和2年2月定例会の代表質問で、私は、大野知事に「危機管理の要諦は、周到な準備とリーダーの優れた状況判断にあるのではないか」と問いました。これに対し、知事は「要は準備にある。そして危機管理は、危機が発生したときに、いかに危機をマネジメント、コントロールできるかを日頃から準備しておくものだ」と答弁されました。
今回の新型コロナウイルス感染症のウイルスの度重なる変異と感染力の強さ、また、新たなオミクロン株、亜種のステルスオミクロンと呼ばれるウイルスまで発見され、今後も予断を許さない状況にあります。私は、災害時などに最悪の事態の全てを想定して準備することは困難だと思いますが、知事は想定外の最悪な事態においても毅然と対応し、機会を捉えて打開していく、マネジメント能力を十分に発揮されています。私が若いときに勤務していた陸上自衛隊には指揮官の心得の一つに、「有事においては、国を守るために極限の状況下でも最善の判断ができ、適切な指揮、統率ができる指揮官を目指さなければならない」という教えがあり、それに相通じるものがあります。
大野知事は就任以来、台風第19号、鳥インフルエンザ、豚熱など埼玉県の危機を克服してこられました。これらの災害はそれぞれの特性があり、対応も違います。そして、今回の新型コロナウイルス感染症は、これまでの危機とは全く違い、ウイルスが何度も変異して人間を襲ってきています。見えないウイルスとの闘いも今年で3年目に入り、この危機への対応は感染を抑えて県民の命を守ると同時に、県内経済も守らなければならないという危機管理能力が求められています。
知事は、これからも埼玉県のリーダーとして様々な危機への対応を求められるわけですが、これまでの経験を基に重要な場面で何を重視して判断し対応されたかも含め、知事の危機管理についてのお考えをお聞かせください。

A 大野元裕 知事

令和元年8月に、知事に就任をして以来、新型コロナウイルス感染症をはじめ、様々な危機事案が発生し、適宜、最優先事項として対処してまいりました。
議員お話しのとおり、私は、危機管理の要諦は、準備にあると考えております。
平時において、あらかじめ起こり得る危機や災害を具体的に想定し、それに対応する組織や実行すべき行動をきめ細かく取り決めた上で、訓練を繰り返し、その経験を蓄積していくことが大切です。
また、県だけでは対処できない危機や災害では、国や市町村、消防、警察、自衛隊はもとより、時には医療機関などの民間事業者とも密接な連携体制を構築して対処することも必要となります。
他方、新型コロナウイルス感染症におけるデルタ株やオミクロン株の出現など、想定外ともいえる最悪の事態に対しては、その全てを準備することは困難です。
そのような事態に対しては、あらかじめ準備、蓄積してきた想定や訓練、経験を組み合わせ、応用しながら対処していくこと、すなわち、想像力を働かせることが重要だと考えています。
この想像力がもたらした想定は共有しなければ意味がありません。
危機に対する体制を整備し、県庁がワンチームとなって取り組むために、想定の共有が必要です。
このような考えの下、個々の事案に即した戦略目標を立て、それを県庁内で共有し、戦略目標に従った戦術を具現化するべきと考えます。
そして何よりも、最終的にはトップとして決断をした責任を明確にする必要があると考えます。
今後とも、危機事案に対する事前の準備を着実に進めるとともに、県のトップとしていかなる困難な状況にあってもしっかりと職責を果たしてまいります。

令和4年度埼玉県一般会計当初予算案について(知事)

埼玉県5か年計画の初年度予算案として編成した際の着眼点について

Q 岡 重夫 議員(県民)

令和4年度の一般会計当初予算は2兆2,284億5,900万円で、昨年度対比5.1%増となり、過去最大の予算規模となっています。歳入では、県税収入はコロナからの経済回復により法人二税を中心に増収が見込まれる一方、歳出では、後期高齢者医療費などの社会保障関係費が増加しており、依然として厳しい財政状況にあります。
令和4年度当初予算案は、さきの12月定例会で議決された新しい埼玉県5か年計画を実行するための初年度に当たる予算で、SDGsの目標達成の2030年や、さらには、日本の高齢者人口がピークとなる2040年を見据えた中長期的な課題の解決に向けた予算となっています。今後、埼玉県は新型コロナウイルス感染症への対応に加え、人口減少や全国一速いスピードで後期高齢者が増加していく中で、強力に進めているデジタルトランスフォーメーションの進展は、私たちの日常生活から企業や行政の在り方や働き方まで幅広い影響を及ぼし、これまでの常識では通用しない新たな発想で物事を進めていかなければならない時代に突入していると認識しています。
こうした時代の大きな変革期において、私は5か年計画の基本姿勢の一つである「新たな社会に向けた変革」という視点が重要だと考えています。また、知事は、議会初日の提案説明の中で「今年は新たな150年に向けた挑戦の年にしなければならない」と発言されました。150年後の埼玉県は、科学技術や社会構造なども大きく代わっています。本年をその挑戦の年にするためには、未来を見据えてしっかりとした基礎づくりの財政運営もしなければなりません。
そこで、まず埼玉県5か年計画の実行に向けて初年度となる令和4年度予算案では、この視点を踏まえてどのように予算編成を行ったのか、知事に伺います。

A 大野元裕 知事

少子高齢化をはじめ、埼玉県が大きな転換期を迎える中、中長期的視点と現下で直面する課題への喫緊の対応の両方の視点が必要だと考えます。
例えば、新型コロナウイルス感染症の拡大による影響は、私たちの日常生活から社会経済活動の在り方に至るまで、多方面に波及しました。
人々の行動や意識、価値観などに変化が見られ、「ニューノーマル」の時代に向かう今こそ、「新たな社会に向けた変革」の視点を持って県政に取り組んでいくことが求められております。
新しい社会の実現に向けては、デジタル技術の進展が欠かせません。
そのため、令和4年度当初予算ではこの視点を踏まえ、社会全体で更なるデジタル化を進め、DXの実現に資する施策を盛り込んでおります。
一つ目は、デジタル技術の活用の促進です。
国・県・市町村・経済界など様々な機関が連携した「DX推進支援ネットワーク」により、デジタル人材の育成やデジタル技術を活用した製品開発など様々なニーズにワンストップで対応し、企業のDX化を支援します。
二つ目は、新しい働き方や暮らし方の定着・加速に向けた支援です。
新たに経営課題の解決を目的とした戦略的なテレワークの活用に向け、業種別ガイドラインを作成することなどにより普及・定着を図るとともに、移住・定住の促進につなげてまいります。
行政手続の分野でも、県営住宅における入居手続きのオンライン化や公金収納のキャッシュレス化などを強力に推進し、県民の利便性の向上を図ります。
これらの施策を進めることで、ポストコロナの社会をより快適で豊かな、真に暮らしやすいものに変革していくことを目指してまいります。

限りある財源の中で、どのようにして持続可能な財政運営を行うのか

Q 岡 重夫 議員(県民)

5か年計画を着実に実行していくためには、何よりも持続可能な財政運営が担保されていなければならないことは当然のことです。そして、令和4年度からそれらの施策を着実に実行していくわけですが、その一方で、急速な高齢化による社会保障関係費の急増など、今後更に財政状況は厳しさを増してくることは確実です。
そのような中、12の針路に基づく各種施策指標の達成に向けて中長期的に取り組んでいくためには、健全な財政運営が求められます。さらに、感染拡大が続く現況においては、感染拡大防止対策と強い経済の構築に向けた双方の取組を進めていくことになります。
ところで、政府が令和3年6月に公表した経済財政運営と改革の基本方針、いわゆる骨太の方針では、財政健全化の堅持と経済成長を促す取組として、ワイズスペンディング(賢明な財政支出)の徹底が掲げられています。いまだ感染症の収束が見通せない中、本県においても政策効果が乏しい歳出を徹底して削減し、政策効果の高い歳出に転換するワイズスペンディングにより、実効性のあるコロナ対策と財政健全化を進めていくことが重要です。あわせて、これまで以上のスクラップ・アンド・ビルドの徹底と事業効果を最大化するための選択と集中を徹底して、限りある財政を有効に活用することも大切です。
そこで、限りある財源の中で、持続可能な財政運営に向け予算編成の中でどのような取組を行ったのか、知事に伺います。

A 大野元裕 知事

県ではこれまでもワイズスペンディングの視点から、実効性のあるコロナ対策と財政健全化に向けた取組を講じてまいりました。
さらに、将来に目を転ずれば、本県の財政状況は社会保障関係経費の急増などにより、ますます厳しさを増すことは確実であります。
このような中でも、5か年計画に掲げる将来像の実現に向けた新たな投資を着実に実行していくためには、限られた財源を有効活用する取組を進めていく必要があります。
そこで、令和4年度当初予算編成では、原則全ての事業を対象に、県費投入の必要性、事業の効率性、事業の有効性の3つの視点から部局自らが主体的な見直しを行う事業レビューを実施し、ワイズスペンディングとスクラップ・アンド・ビルドの更なる徹底を図りました。
実施にあたっては、可能な限り定量的な成果指標の設定を行うとともに、インプットからアウトカムまでの論理的な因果関係の検証に努めたところであります。
例えば「ポケットブックまいたま」については、コスト面の課題や利用促進に向けた方策などを検証した結果、LINE内にアプリを再構築することで、利便性の向上に加え、運用コストの大幅な縮減がみられました。
また、就任以来取り組んでいるデジタル化、DXの推進は、ルーティン業務をはじめとする業務の在り方を変革させ、効率的な業務推進と必要性に応じた集中的な支出を可能にする基盤を提供します。
こうした限られた財源を有効活用する取組を継続し、更にブラッシュアップしていくことにより、持続可能な財政運営を行ってまいります。

新型コロナウイルス感染症への対応について(知事)

Q 岡 重夫 議員(県民)

令和元年2月1日に指定感染症COVID-19と指定されてから、未知のウイルスとの闘いは今年で3年目に入りました。また、日本では昨年後半に第5波が収束に向かいましたが、11月30日に国内で初めて感染が確認されたオミクロン株の急速な感染拡大によって第6波となり、過去最大の新規感染者数を更新し続けました。最近は減少傾向となっても、2月22日現在、県内の1日の新規感染者数が3,879人という状況です。確かに第5波に比べると重症者は少ないといわれていますが、一般病床使用率は60%を超えて増え続けています。
ところで、今回の新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、当初約100年前のスペイン風邪が例に挙げられましたが、現在の発達した医療体制や公衆衛生の発達から、多くの国民は短期間で収束すると楽観視していたと思います。ところが、スペイン風邪に比べて感染者数や死者数は少ないものの、現在の状況を見るに収束までにはまだ期間を要すると予想されます。
また、新型コロナウイルス感染症は歴史上類を見ないウイルスとの闘いですが、これまで我々が過去に経験した感染症との闘いの歴史、そして今後予想される地球温暖化による異常気象などで新たなウイルスの発生が考えられ、人類とウイルスとの闘いは今後も続くものと予想されます。
そこで、知事に次の3点について伺います。
まず、第1点、新型コロナウイルス感染症のこれまでウイルスの度重なる変異などを見て、その特性をどのように分析し、今後の対策などをどのように取ろうとお考えなのか、知事に伺います。
2点目、県民はこれまでの2年間、度重なる緊急事態宣言などにより我慢の生活や生活の変化を強いられ、多くの県民に疲れが見えています。また、オミクロン株の急激な感染拡大で疲労感が大きくなると同時に、オミクロン株は重症者が少ないとの報道を受けて、危機感や緊張感が薄れているのではないかと危惧しています。また、去る1月19日に発令されたまん延防止等重点措置が、更に3週間延長されたことで疲労感は一層増し、3回目のワクチン接種が思うように進まない要因の一つには、危機感や緊張感の希薄化によるものと指摘する声もあります。
そこで、この危機を乗り切るためには、県民の協力を得て、県民と一体となってワンチームで危機を乗り越えることが大事です。そのために大切なのは、大野知事が県民のこのような感情を感じ取ることです。知事にも、飲食店の営業が制限される中で働く場を失った人がたくさんいること、さらに、保育園の急な休園でやむを得ず休業をしないといけない家庭のつらさなどの生の声が届いていると思います。
知事は、そのような県民のつらい立場も分かった上であらゆる媒体を使い、自らの言葉で県民の協力を呼び掛けることが必要ではないかと思いますが、知事のお考えをお聞かせください。
3点目、1月19日に政府が埼玉県にまん延防止等重点措置を発出した際、大野知事は「感染対策を講じながら経済活動を併せて行うウィズコロナの段階に入った」と述べられ、埼玉県だけがワクチン検査パッケージを採用しました。また、令和4年度予算案でもウィズコロナでの経済の回復、成長の項目が明記されています。
さて、オミクロン株の発生とその特性を踏まえ、専門家の中には、感染症法上の新型コロナの位置付けを季節性インフルエンザと同様の5類相当まで引き下げるべきで、これにより感染者は保健所を通さずに診療所で診察することが可能になり、感染者が急増しても医療ひっ迫を招かずに、重症者を手厚く治療できるという意見もあります。現在、国内でも3回目のワクチン接種に移行し、飲み薬も承認されました。そして、ウィズコロナで経済社会活動を続けていくにも、もちろん検査体制をしっかりと整備することも当然必要です。
小池東京都知事は国に対して、5類への変更も含めて科学的知見を集めてほしいと発言しています。そこで、感染法上の2類から5類への変更について、知事のお考えをお聞かせください。

A 大野元裕 知事

新型コロナウイルスの特性をどのように分析し、今後の対策をどのように取ろうとしているのかについてであります。
新型コロナウイルスの特性については、この2年間で様々な知見が積み重なってきていますが、ウイルスは流行していく中で少しずつ変異を起こし、新たな対応が必要になるため、今後も更に知見を積み重ねていく必要があります。
現在、感染が拡大しているオミクロン株は、デルタ株に比べて感染力が強く、感染拡大のスピードが極めて速いことが特徴です。
さらに、子供の感染が拡大しており、学校等での感染を原因として、家庭内で感染が拡大する事例が見られます。
まず軽症者の数が急激に増加し、併せて中等症患者も一定程度増加する中で高齢者患者も増え、重症者、入院者も増え医療全体がひっ迫していくことが懸念されるとともに、基礎疾患が悪化をし、重症化するケースが増えることとなります。
このようなオミクロン株の特性を踏まえ、保育所や放課後児童クラブにおける対策として保育士等のワクチン接種を促進し、園内での基本的な感染防止対策の徹底を進めています。
高齢者施設においても、感染予防のため、入所者等への3回目のワクチン接種を進めるとともに、施設職員に対するPCR検査を定期的に実施するよう要請しています。
また、病床のひっ迫を防ぐ必要があることから、コロナの症状が軽快した入院患者を転院させる後方医療機関の拡大を図っています。
今後は変異が発生する場合にも専門家の知見等を踏まえ、それぞれの変異株の特性に応じ、ウイルスに感染した方の重症化や命にかかわるケースを最小限にとどめることを戦略目標とし、社会経済活動との両立にも配慮しながら、新型コロナウイルス対策に粘り強く取り組んでまいります。
次に、あらゆる媒体を使い、自らの言葉で県民へ協力を呼び掛けることが必要ではないかについてであります。
議員御指摘のとおり、この危機を乗り切るためには、県民一人に御ひとり協力をいただき、県民一体となりワンチームで対応することが大変重要です。
このためには、議員御指摘のとおり県民の生の声を聞くことが欠かせません。
私の元には、知事への提案をはじめ、毎日県民の皆様から多くの御意見・御提案が寄せられています。
寄せられた御意見の中には、新型コロナウイルスの影響で仕事を失ったり、休まざるを得なくなったりした方の悲痛な声も含まれています。
私はこうした御意見に全て目を通し、できる限り県民の皆さんの気持ちに寄り添えるようにしています。
また、県民に協力をお願いする際は、記者会見やSNSで呼び掛けるだけでなく、できる限り現場に足を運び、一人でも多くの県民に御協力をいただけるよう、自らの言葉で直接語り掛けるようにしています。
まん延防止等重点措置がスタートした1月21日には、さいたま市の清水市長と、延長された2月14日には川口市の奥ノ木市長とともに街頭に立ち、感染拡大防止のために県民の皆さんのお力をお借りしたいことを繰り返し訴えました。
また、感染防止に取り組む飲食店や認定こども園等に足を運び、現場の声を丁寧に伺うとともに、感染防止対策の徹底を直接呼び掛けたりもしています。
今後とも、県民の気持ちに寄り添いながら、あらゆる媒体を使って県民に協力を呼び掛け、県民と危機感を共有してまいります。
次に、新型コロナウイルス感染症の位置づけを、季節性インフルエンザと同様の5類へ変更することについてであります。
現在、新型コロナウイルス感染症は2類相当とされているため、感染者への就業制限や入院勧告、県民への外出自粛要請などを感染症法に基づき行うことができます。
他方、これを季節性インフルエンザ相当の5類に変更すると、こうした措置はできなくなります。
さらに、入院費等の公費負担は法的根拠がなくなり、自己負担で検査や治療を受けることになり、あるいは陽性者や濃厚接触者が休む場合には欠勤扱いとなります。
新型コロナウイルスについては、科学的知見が蓄積されてきてはいるものの、まだまだ分かっていないことが多いことも現状です。
ウイルスが変異を繰り返して強毒化する可能性も否定はできません。
こうしたことから、5類への変更については、十分な科学的知見を集めた上で、あらゆる事態を想定した議論・検討を行い、慎重に判断するべきものと考えております。

2040年に向けた高齢者介護・医療体制について(知事)

介護職の社会的評価向上に向けて

Q 岡 重夫 議員(県民)

昨年12月定例会の一般質問で、埼玉民主フォーラムの木村勇夫議員が大野知事に、2040年問題についてその認識と政策展開について質問しました。その際、知事は「少子化による人口減少が進み、高齢者人口が最大となる2040年に本県は更なる高い峰を迎える。この高い峰に向かって中長期的な視野を持ちながら、やるべきことを今からしっかりと取り組んでいく」と強い決意を述べられました。
そして、埼玉県5か年計画にも針路3に「介護医療体制の充実」を掲げておりますので、この点について伺います。
厚生労働省は、昨年7月に2040年度に介護職員が約280万人必要となり、現状と比較して約69万人が不足するとの推計を発表しました。埼玉県でも、2040年度の介護職員の必要数約14万人に対し、約4万6,000人が不足すると見込まれています。そのような中、埼玉県5か年計画では、介護人材の確保、定着に向けて介護職員に対するきめ細かい支援を行い、2026年度までに介護職員を11万7,500人確保する目標を定めています。
一方、国は介護職の給与を9,000円アップする処遇改善策を出しましたが、県もまた介護人材の確保や定着率向上に努め、あわせてロボットやICT導入により職場環境改善などを進めています。しかし、これらは介護職の短期の定着率に向上するもので、中長期で介護職の確保、定着率向上を考えた場合、介護職員の社会的評価を上げない限り、慢性的な人材不足は解消しないばかりか、介護現場の人材不足は更に深刻化するおそれがあります。
多くの介護職の人は高齢者や人の役に立ちたいという思いで職を選び、一所懸命働いています。しかし、重労働で腰やひざなどを壊してしまい、残念ながら離職せざるを得ない人が多くいるのが現状です。そのような人たちも含めた現場の話を聞くと、仕事のやりがいや若い人たちや他職種からの参入を促す意味でも、介護職の社会的評価を上げてほしいという声を多く聞きます。
では、どうすれば、社会的評価が上がるのでしょうか。
まずは、介護職の職務内容や範囲の拡大と高度化が必要ではないかと考えています。例えば現在、オミクロン株により新型コロナウイルス感染症の感染が急拡大し、高齢者施設においてクラスターが多数発生しています。利用者に最も接する介護職員の一人ひとりが感染症予防に関する知識やスキルを更に身に付け、施設内での感染拡大を防止することができれば、利用者や家族、そして地域からも、より一層高い信頼を得ることができると考えます。
さらには、制度改正が必要となりますが、医師の指導の下に看護師ができる仕事の一部を介護福祉士でも行えるよう技術を修得する、また、介護職員が自宅で家族を介護している人の相談を受けて的確なアドバイスができるなど、看護師と同じような専門的な知識を持つことができれば、患者やその家族から信頼を得て社会的評価の向上につながる可能性があります。
そこで、介護職の社会的評価を上げることの必要性について、知事のお考えと今後の施策について伺います。

A 大野元裕 知事

介護の仕事は、利用者お一人お一人の心身の状況を踏まえ、その人らしい生活の実現を支援する大切な仕事だと思います。
介護職の社会的な評価をより高めることで、更に多くの優秀な人材が集まるという好循環が期待されることから、議員と同様に私も社会的評価を向上させることが重要と考えます。
介護の仕事に従事される方々は、日常生活を支える介護技術を必要とすることはもちろん、感染症への対応や看取りケアなどを行うために、医療に関する専門的な知識や技術も求められます。
また、これからの介護職には経験だけに頼らず、科学的な根拠に基づいて質の高いサービスの提供も求められると考えます。
介護職の社会的評価を高めていくためには、こうした介護職の専門性を更に向上させるとともに、その専門性に見合った賃金の改善が必要だと思います。
このため、国に対し、高度な専門性を有する介護職員がその評価にふさわしい賃金を得られるよう求めてまいります。
また、県といたしましても独自に介護福祉士などの資格の取得を支援するとともに、感染症や医療的ケアに関する各種研修などを実施し、キャリアアップが図られるよう支援をしてまいります。
さらに、介護職の社会的評価を高めるために、関係団体と連携し、介護職の役割の大切さや魅力を積極的にPRしております。
今年度は、コロナ禍の中で、高い使命感を持って高齢者の生活を支えてこられた介護職の方々に対して、県内の多くの企業や団体から感謝の気持ちを伝えるメッセージをいただき、ホームページで公開をいたしました。
私もビデオでメッセージを贈り、感謝を述べさせていただきましたが、こうした事も社会的評価の向上につながることを期待しての行いであります。
今後とも2040年を見据えた長期的な視野に立ち、介護職の社会的評価を高めながら積極的に介護人材の確保に努めてまいります。

認知症の家族を守るための体制強化を

Q 岡 重夫 議員(県民)

国の認知症施策推進大綱を踏まえ、本県の実情に合わせて策定された埼玉県認知症施策推進計画では、県内の認知症の人数は2012年に22万5,000人、2025年に40万人、そして2040年には58万人に達すると推計しています。
我々が目指すべきことは、高齢者の単身世帯や高齢者夫婦のみの世帯が増加する中で、認知症の人たちも住み慣れた地域で尊厳と希望を持って安心して生活できる社会を実現することです。そのためには、認知症の容態に応じた医療、介護及び生活支援サービスなどが連携したネットワークシステム支援体制が求められています。現在、各市町村では地域支援事業として認知症カフェを開設したり、認知症サポート医などの専門医で組織される認知症初期集中支援チームが認知症の人や家族に必要なサービスを提供しています。
私は、その中で認知症地域支援推進員の役割が非常に大切だと考えています。この推進員は市町村に配置し、地域の支援機関の連携づくりや行政との連携役、さらには、認知症の人やその家族を支援する相談業務などを行っています。
しかし、私は介護の現場から推進員を中心とした関係各組織や団体などの横断的な体制づくりが十分でないという声を聞いています。一方、認知症の世話をしている家族の中には、周りに認知症と知られたくないために誰にも相談しないで、一人だけで介護に苦しんでいる人がいるのも事実です。
そのため、社会全体が認知症は高齢とともに誰でもなり得るものであることを周知させ、気軽に相談できる、あるいはSOSを発信できる体制づくりも必要だと考えます。特に今後の更なる高齢化社会、特に高齢夫婦だけの世帯が増えることなどを考えると、地域包括ケアシステムの更なる体制強化と認知症対策を一体に捉えながらの支援体制づくりが重要です。
そこで、認知症の人やその家族を支援する仕組みづくりを急ぐべきと考えますが、知事のお考えを伺います。

A 大野元裕 知事

県では、これまで認知症の人とその家族を支えるために、市町村とともに地域包括ケアシステムの構築に取り組んでまいりました。
その結果、全ての市町村で認知症初期集中支援チームや認知症地域支援推進員が設置されるなど、認知症の早期発見、早期対応に関する基盤は整ってまいりました。
認知症地域支援推進員については、養成研修を受講した社会福祉士など430人の専門職が、市町村や地域包括支援センター等に配置されています。
今後も、医療と介護の専門職を対象とした多職種連携に関する研修を行い、有機的な関係が進むよう取り組んでまいります。
さらに、これからは買い物や通院、家事などの日常生活への支援とともに、認知症の御本人の社会生活を支援していくことも重要です。
そのため、認知症の人や家族が集う認知症カフェの開設については、市町村の要望に応じて、認知症カフェの設置・運営の専門家を派遣するなど、より一層支援を強めます。
私自身、認知症カフェを訪問し、認知症の御本人や家族の悩みを共有し、ともに支えあう仕組みの重要性を強く認識をいたしました。
令和3年度からは、認知症カフェなどを拠点として、認知症サポーターなどがチームを作り、認知症の方やその家族のニーズに合った具体的な支援につなげる「チームオレンジ」の構築を推進しています。
認知症施策推進大綱に基づき、2025年までに全市町村での「チームオレンジ」の構築を目標に支援してまいります。
県といたしましては、2040年に向け、今後もこうした様々な活動が更に広がるよう支援をし、認知症の人とその家族が安心して暮らせる社会を目指し市町村とともにスピード感をもって取り組んでまいります。

訪問薬剤師のサービス体制づくり

Q 岡 重夫 議員(県民)

訪問薬剤師とは、自宅や施設などで生活する患者の下に医薬品を届け、医師の指示により服薬の指導や管理をする薬剤師を言います。
高齢化社会に伴い、医師や看護師、ケアマネジャーなどと連携してチーム医療により患者の健康管理を行う訪問薬剤師のニーズは高まっています。しかし、県内の現状は、かかりつけ薬剤師、薬局が主流となっていて、調剤薬局が調剤業務と訪問医療業務を兼任しながら業務を担っているのが大半です。また、訪問薬剤師は、患者の状態によっては医師に代わり医療サポートをすることもあり、認知症の患者の場合は、ケアマネジャーや介護スタッフへの情報提供を行うため業務範囲が多岐にわたり、責任も大きくなります。
今後、急速なスピードで進む高齢化社会を見据えた場合、訪問薬剤師の必要性が高まることは間違いありません。そこで、県として、県薬剤師会と協力して訪問薬剤師のサービス体制の確立を推進することが必要と考えますが、知事のお考えを伺います。

A 大野元裕 知事

議員お話しのとおり、高齢化の進展に伴う訪問薬剤師のニーズは、今後も大きく増加をすると見込まれます。
在宅訪問する薬剤師は、在宅においても質の高い医療を提供するため、主治医や訪問看護師、介護職など多職種と連携し、薬の飲み残しや重複の解消など適切に薬物療法を行う役割を担っています。
このため、自宅や施設で服薬指導や薬の管理を行う「訪問薬剤師」は、在宅療養する患者にとっては、身近で信頼のおける「かかりつけ薬剤師」でもあります。
在宅医療の推進のためには、在宅訪問もできる「かかりつけ薬剤師」の育成が重要であると考えています。
新たな5か年計画に位置づけられた「かかりつけ薬剤師・薬局の育成・普及」においても、在宅訪問ができる「かかりつけ薬剤師」の育成に取り組むこととしております。
そのため、県では、これまで埼玉県薬剤師会の協力を得て、在宅での経験が少ない薬剤師に対し、薬の飲み残しの改善指導手法や経験豊富な薬剤師に同行をさせ在宅訪問のノウハウなどを学ぶ研修を行ってまいりました。
こうした取組に加え、今後、ニーズが高まっていく在宅での緩和ケアにおける薬剤師の役割を果たすための研修などを通じて、在宅訪問する薬剤師のサービス体制を確立してまいります。

災害医療体制の強化について(知事)

Q 岡 重夫 議員(県民)

災害医療とは、地震や豪雨水害などいわゆる災害発生時に、通常よりもはるかに多くの医療対象者が発生した際に行われる初期医療を言います。そして、災害医療の最優先課題は、いかにして救うことのできる命を救うかです。
近年、埼玉県も豪雨災害が発生し、多くの負傷者が出ています。さらに、今後は首都圏直下型地震や東海沖地震の発生も予想される中、県は令和2年3月に埼玉県災害時医療救護基本計画を策定し、災害医療の整備、特に災害拠点病院の整備やDMATの養成を行っています。また、埼玉県5か年計画では、災害時の拠点となる病院の整備など災害医療体制の強化を主な取組として明記しています。
ところで、現在、災害医療の核となる災害拠点病院は県内で22か所で、秩父保健医療圏、北部西保健医療圏、川越比企北保健医療圏の3つの医療圏には災害拠点病院がありません。そこで、県は、その他の災害医療体制のぜい弱な医療圏も含めて、本年1月に新たに10か所の災害時連携病院を指定し、その中で、川越比企(北)保健医療圏には2か所の病院を指定しました。
しかし、秩父保健医療圏と北部西保健医療圏では災害時連携病院を指定できませんでした。埼玉県5か年計画では、この災害時連携病院を令和8年度末に35病院とするとしていますが、今後はこの2つの保健医療圏を最優先して指定すべきだと考えます。
以上を踏まえて、災害医療体制の現状と今後の体制強化策について、知事に伺います。

A 大野元裕 知事

本県では、首都直下型地震などに備え、災害時において多発する重症患者の受入れなどを24時間体制で行うとともに、発災後速やかに医療救護活動ができる埼玉DMATを擁する災害拠点病院を22か所指定しています。
議員御指摘のとおり、現在、秩父保健医療圏や北部西保健医療圏、川越比企北保健医療圏には、災害拠点病院の要件を満たす病院はありません。
そこで、県では災害時に中等症患者や災害拠点病院からの容態の安定した重症患者の受入れを行う、災害時連携病院を今年度から整備することとしました。
災害時連携病院と災害拠点病院が連携することにより、より多くの患者に対応できるほか、災害拠点病院は重症患者の受入れに注力することができるなど地域の災害医療体制の強化が図られることとなります。
災害はどこで起きるか分からないため、災害医療の体制に地域偏在があってはならないと考えております。
そこで、本年1月にはこれまで指定のなかった川越比企北保健医療圏を含め10病院を災害時連携病院に指定をしたところです。
今後の体制強化策として、指定のない秩父保健医療圏及び北部西保健医療圏の医療機関への働き掛けを重点的に行うとともに、地域DMATの新規養成やBCP策定などの支援を行うことにより、できる限り早く指定ができるよう努めてまいります。

自殺防止対策について

相談支援体制について(知事)

Q 岡 重夫 議員(県民)

コロナ禍で憂慮すべき問題は感染症だけでなく、病気や経済的困窮などを理由とした自殺者が増加していることです。自殺防止対策については、我々会派は毎年取り上げていますが、現状を見るにまだまだ取組が途上であることを痛感しています。
さて、自殺率は国民の幸福度を知ることのできる重要な指標と言われています。経済的に豊かでなくても、自殺率が低い国は国民の幸福度が高く、逆にどんなに経済力があっても自殺率が高い国は国民の幸福度が低いと言われています。
そこでG7、先進七か国首脳会議で見た場合、人口10万人当たりの自殺者数は、1位が日本で16.1人、次いで2位はアメリカの14.7人、3位はフランスで13.1人で、次いでドイツ、カナダ、イギリス、イタリアの順となっています。こう見ると日本は、国民の幸福度はかなり低いと言えます。最近、テレビなどで自殺の報道がされるたびに、救う方法はなかったのか、残された家族の悲しみはいかばかりかと胸が締めつけられます。
さて、我が国では、平成2年の後半から増加してきた自殺者数は、平成15年の3万4,427人がピークでした。それ以降、様々な対策が功を奏し減少はしているものの、いまだに年間2万人を超えています。一方、埼玉県における自殺者数は、平成21年の1,796人をピークに減少はしていますが、毎年1,000人を超える人がなくなっていて、依然として深刻な問題です。
自殺の多くは追い込まれた末の死であり、誰もが自殺に追い込まれることのない社会の実現を目指すことが大切です。また、厚生労働省が平成28年に実施した国民の意識調査では、国民の20人に1人が「最近1年以内に自殺を考えたことがある」と回答していて、今や自殺の問題は一部の人や地域の問題ではなく、国民誰もが当事者となり得る重大な問題です。
大野知事は、公約「次世代を担う子供たちを育成する埼玉へ」の中で自殺対策の推進を掲げ、これまでも様々な対策を行い、自殺防止に取り組んでこられました。また、令和3年度にはSNSなどを通して新たな相談体制の構築も行われ、令和3年3月には埼玉県第二次自殺対策計画を策定し、県庁を挙げて対策に取り組んでいます。さらに、令和4年度予算案にも自殺対策の事業が盛り込まれています。
県の支援相談体制には、相談内容によって相談窓口が分かれています。そして、埼玉県第二次自殺対策計画には「精神保健福祉センター及び保健所の相談体制を強化する」と記載されています。一方、県のホームページを見ると、各保健所や市町村の保健センターなどが記載されているほか、こころの健康相談統一ダイヤルや埼玉いのち電話などの民間団体による支援、そして法律相談窓口があり、県民から幅広く相談を受ける体制を取っています。
現在、コロナ禍で私たちにも県民の皆さんからの相談があり、生活面や健康のこと、さらには、家族のことなど以前より多岐にわたり、かつ深刻さが増していることを実感しています。そのような相談を丁寧に聞いてアドバイスができれば、自殺を防ぐことにもつながります。
また、私は、コロナ禍だからこそ身近なところで住民の相談に乗れる行政の窓口があること、さらには、県と市町村の自殺防止の情報の共有体制も大切で、相談体制の強化が求められていると考えています。
そこで、県と市町村との連携した相談体制の強化策について、知事にお考えを伺います。

A 大野元裕 知事

自殺の背景には、精神保健上の問題だけでなく、過労、生活困窮、育児や介護疲れ、いじめや孤立などの様々な社会的要因があることが知られています。
このため、まずは相談を受けた機関が当事者の困り事や悩み事をしっかりと受け止めるとともに、問題に対応した専門機関につなげられるよう、セーフティネットの更なる充実強化が必要であると考えています。
議員御指摘のとおり、住民に身近な相談窓口である市町村の役割が、コロナ禍にあっては、ますます大きくなっていると認識をしております。
現在、埼玉県下の全ての市町村に自殺予防相談窓口が設置されていますが、県では、相談に当たっての参考となるよう、県内の自殺情報を収集した市町村ごとの自殺実態情報、いわゆるプロファイルを提供しています。
また、県医師会に委託し、市町村職員も含む自殺対策業務従事者に対して、人材養成研修を実施するなど、市町村における自殺予防対策が適切に行われるよう支援しています。
なお、先月末に県内市町村の状況を調べたところ、相談窓口や電話回線を増やしたり、相談時間を延長するなどコロナ禍における相談体制の強化が図られております。
今後も、市町村と連携をし更なる相談体制の強化に努めてまいります。

ゲートキーパーについて(知事)

Q 岡 重夫 議員(県民)

ゲートキーパーの充実を図ることについては、昨年の代表質問で提言しましたが、それに対して大野知事は県内各首長にゲートキーパーの養成促進の書簡を送られ、知事自身が重視していることが伝わってまいりました。
一方、埼玉県自殺対策計画にはゲートキーパーの認知度調査がありますが、「ゲートキーパーを知らなかった」と答えた人が86%もいて、県民の多くがゲートキーパーについて認知していないことが分かりました。また、計画には、「自殺対策に係る人材の確保、育成、資質の向上を図る」とし、「様々な分野でゲートキーパーを養成する」とありますが、現状ではコロナ禍で思うような研修ができず、人材の育成も困難な状況ではないかと推察します。
ところで、昨年会派で実施した児童養護施設出身の方との勉強会において、当事者として後輩の相談を受けている山本昌子さんが「絶望して死にたいという電話に対しては、とにかく生きてと言って励ましている」と伺いました。それを聞いて私は、SOSを出せる相手、それを感じ取ることができる人が一人でもいれば自殺を防げるものと、改めてゲートキーパーの必要性を感じています。
そこで、昨年の代表質問から一年を経て、県内のゲートキーパーの養成に関する現況と今後の更なる取組について、知事に伺います。

A 大野元裕 知事

令和3年2月議会の議員からの御質問をいただき、私は、令和3年3月に県内市町村長に宛てて「ゲートキーパー養成の積極的推進のお願い」の文書をお送りし、直接働き掛けを行わさせていただきました。
さらに、今年度7月に開催した市町村自殺対策担当者会議において初めてゲートキーパー制度を取り上げ、その重要性について周知を図りました。
先月末に実施した調査では、県内45市町村が、行政職員、小中高校の教員、民生委員、市民等を対象にしたゲートキーパー研修を実施しております。
令和2年度の実績と比較すると、開催回数は約1.5倍、受講者数は約1.3倍の5,258人となっております。
この調査では、議員御指摘のとおり、県内14の市町村が「ゲートキーパーについての住民の理解が進んでいない」と感じていることが分かりました。
このほかの課題として、「養成後の活動支援」「研修内容の充実」「講師の確保」が挙げられました。
このため、県は、ホームページやSNSなどを活用してゲートキーパー制度を周知するほか、県内外の好事例を市町村と共有をし、市町村が抱える課題が解消されるよう取り組んでまいります。
今後も、ゲートキーパーの重要性を発信するとともに、県内のゲートキーパー養成を推進してまいります。

学校教育における「SOSの出し方に関する教育」について(教育長)

Q 岡 重夫 議員(県民)

国の調査によると、令和2年度の県内公立小中高等学校における児童生徒の自殺が疑われる事案が21件起きており、前年度の15件から増加していて、状況は深刻化しています。国の分析によると、令和2年における小中高校生の自殺の原因や動機は、小学生の第1位が家庭問題、中学生は学業不振、そして高校生は進路問題で、その他の原因を含めると実はその多くは大人に関係していて、子供の自殺を減らすには大人が変わることが必要だと言われています。
現在、県内の教育現場ではSOSの出し方に関する教育が進められていますが、子供たちがSOSを出したときに、大人たちがしっかりとそのSOSを受け止められるかどうかが問われています。ある教育専門家は、子供たちの悩みに真摯に耳を傾け、SOSをしっかり受け止める大人が増えない限り、子供の自殺は減らない。逆に、大人の対応が変われば、子供の自殺は今よりも必ず減ると指摘しています。
このSOSの出し方に関する教育は、平成29年7月25日に閣議決定された自殺総合対策大綱の中に明記されています。子供たちはSOSを発信することをためらうことが多いので、私も大切な教育だと思います。また、発信したSOSをどのように受け止めて対応するかの教職員の知識や対応力も重要です。
昨年度、県は東京大学大学院との自殺を含むあらゆる問題を防ぐため、子供の他者に援助を求める力の向上や校内組織の体制強化、外部専門機関等との連携などに取り組む協定を締結しました。また、令和3年度からはこの連携協定を基に、子供たちの心身の不調の早期発見、早期対応に向けた体制整備に取り組む研究を始めています。
そこで、現在のSOSの出し方に関する教育の実情、特にその効果などをどのように捉えているのか、教育長に伺います。
また、東京大学大学院との連携協定による実施状況について、併せて教育長に伺います。

A 高田直芳 教育長

まず、現在のSOSの出し方に関する教育の実情、特にその効果などをどのようにとらえているかについてでございます。
未来のある子供たちが自ら命を絶つようなことはあってはならないと考えており、このような悲劇が起こらないよう、発達段階に応じて様々な視点から取組を行うことが大切です。
そのためには、議員御指摘のとおり、児童生徒がSOSを出すことができる力を身に付けるとともに、そのSOSを周囲の大人がしっかりと受け止め、適切に対応することが重要であると考えております。
県はこれまで、様々な機会を捉え、県立学校や市町村教育委員会に対して自殺予防対策の重要性を周知するとともに、国や県が作成した自殺予防に関する資料やSOSの出し方に関する授業モデルの活用を促してまいりました。
また、担任や養護教諭、スクールカウンセラー等が連携し、心配な生徒を複数の目で見守り支援を行うなど、相談体制の充実を図ってきたところです。
さらに、学校によっては、専門的なスキルを持った養護教諭やスクールカウンセラーが授業で直接生徒に指導をしたり、外部講師が担任と一緒に指導をしたりするなど、SOSの出し方に関する教育に取り組んでおります。
その一方で、令和2年度は自殺が疑われる件数がこれまでになく多く、残念ながらその効果は十分とは言えず、より積極的な取組が必要であると認識しております。
次に、東京大学大学院との連携協定による実施状況についてでございます。
県では、自殺予防対策を含め幅広く児童生徒のメンタルヘルスリテラシーの向上に向けた教育の充実に資するため、令和2年11月に東京大学大学院と連携協定を締結し、課題の解決に向けて可能なものから順次実施しております。
例えば、児童生徒のメンタルヘルスに関する基礎知識や対応方法について、教職員がそれぞれの役割に応じて理解することが必要なことから、各学校の職員研修において東京大学が作成した役割別の講義動画を視聴いたしました。
視聴後の教職員によるアンケート結果では、自殺の恐れがある児童生徒への声掛けの大切さなど、自殺予防などに関する正しい知識を理解した割合が、視聴前の51%から79%へと30ポイント近く向上いたしました。
また令和3年4月から、中学・高校13校を研究推進校に指定し、教職員への専門的な研修を実施することで、生徒がSOSを出すことができる力の育成に取り組んでおります。
推進校の生徒からは「勇気を出して相談してみようと思った」、「ロールプレイングを行っているとき、このまますべて話そうと思った」など、生徒自身が悩みを相談することの大切さを改めて感じたとの感想がありました。
今後も、「SOSの出し方に関する教育」に取り組むとともに、困難を抱える児童生徒に対して周囲の大人が早い段階から適切に支援できるよう、県立学校や各市町村教育委員会とともに積極的に取り組んでまいります。

みどりの食料システム戦略について(知事)

Q 岡 重夫 議員(県民)

島国の日本は、農業に力を入れなければならないのは当然のことです。特に今後中国をはじめ世界は自国民の食料確保に重点を置くために、日本の食料の輸入は困難になると予想されています。
さて、政府は令和3年5月に30年後の農業ビジョン、みどりの食料システム戦略を決定しました。これには、最終的に2050年までに目指す日本の農業の姿が示され、将来の農業の方向性を見据えた長期的な戦略となっています。現在、国はこの戦略の実現に向けて新たな法律の制定を進めており、埼玉県はその法律に示される国の基本方針に従って基本計画の策定の準備を進めていると伺っています。
今回はその中の有機農業について伺います。
有機農業とは、化学肥料や農薬を使わない、そして遺伝子組替技術を利用しないことを基本とし、環境への負荷をできる限り軽減する農業です。そのために、この農業は消費者からは安全で安心した食料が提供されるために評価され、県も推進しています。
一方で、生産者は栽培自体に労力がかかるほか、有機JAS認証を取るにも労力がかかり、農家数は一定数増加しつつも思うように進んでいないのが現状ではないでしょうか。現に日本の耕地面積における有機栽培の取組面積の割合は約0.2%です。一方、世界を見ると一番割合の高いイタリアでは15.8%、ドイツは9.1%、アメリカでは0.6%という状況で、世界的に見ても日本の有機農業の現状は大変厳しいことが分かります。
そのような中、今回政府の定めたみどりの食料システム戦略では、有機農業の取組面積の目標は2050年までに25%となっています。こうした中において、埼玉県の有機農業面積の割合は僅かに0.34%と聞いています。一方、埼玉県5か年計画には、「農薬や化学肥料の軽減など環境に配慮した栽培による高付加価値化」という取組が明記されています。しかし、約30年後までに目標である25%を達成するには、現在よりも70倍以上の結果を出す必要があり、実現には至難のわざではないかと考えています。
私は、国の25%の目標を達成するためには、県が有機農業に取り組む生産者の支援を拡充して埼玉県で成功例をたくさん作ることや、有機農業の技術研究や指導員などの人材育成を横断的に実施することで埼玉県が全国をリードし、国全体で目標達成することが大事だと考えています。
そこで、この政府の戦略における有機農業の目標値を埼玉県として、どのように達成しようとするのか、知事のお考えを伺います。

A 大野元裕 知事

私は、農業は人々の食と命を支えており、食料安全保障の面からも重要な産業であると考えています。
その中で有機農業は、SDGsが目指す持続可能で環境との調和が取れた社会の実現にも大きく貢献をするものです。
国の「みどりの食料システム戦略」では2050年の有機農業の取組面積を、2040年までに農業者の多くが有機農業に取り組める技術を確立した上で、その後飛躍的に拡大させるプロセスとして描いています。
こうした技術の確立には大きなイノベーションが不可欠であります。
このため、県としても、国や民間企業と連携しながら、雑草管理や害虫防除などの作業を劇的に省力化する技術など、その時々の革新的技術の普及を推進してまいります。
また、将来の大きな目標を達成するためには、今現場で行われている成功事例を積み重ね、一歩ずつ着実に取組を前に進め、有機農業の拡大に向けた機運を高めることが重要です。
来年度は、有機農業を支えるため、先進農家の栽培技術を生産者の間で共有できる場や、生産者と消費者、流通業者の交流の場を新たに設けるなどの環境づくりを行い、有機農業関係者のつながりの強化を図ります。
さらに、先進農家を核として、生産から流通・消費の観点も取り入れた地域ぐるみの有機農業を確立する取組を支援し、全国のモデルとなる産地を育成します。
また、継続して有機農業を推進していけるよう、技術の進展に応じた研究や普及、栽培指導などを担う人材の育成・確保も図ってまいります。
2050年の目標を見据え、有機農業の拡大に向けた取組を着実に進めてまいります。